世界各国がお金を刷り続けている

【ロジャーズ】もちろん日本が経済危機に陥れば、その影響は世界中に波及します。アメリカあるいは中国で大きな不況がはじまったとしても、同じく世界中に波及します。今後どこか大きな国が経済危機に陥ったら、全世界が何らかの不況に陥るでしょう。

アメリカをはじめ、世界各国の中央銀行(以後、中銀)は利上げを実施していますが、その裏でお金の増刷は止まっていません。それは、日本でも同じですし、世界中の政府がまだまだお金を印刷し続けているのです。利上げをしても、その裏でお金を刷り続けていれば、借金はさらに増え続けていきます。この傾向は2008年から続いています。世界中の政府はリーマンショック後に大量にお金を刷るアクションをとりました。そのため、世界経済はリーマンショックから2020年のコロナショックまで大きな不況もなく、成長し続けることができたのです。

しかし、お金を印刷し続けたことによって、これまで経験したことのない水準まで借金が膨れ上がっているのは事実です。2008年以降は中国ですら借金を増やし続けており、今後はとてつもなく大きな経済危機がわれわれを待ち構えていると感じています。

「とてつもなく大きな経済危機が待ち受けている」とジム・ロジャーズ氏は危惧する。
撮影=Takao Hara(Luxpho)
「とてつもなく大きな経済危機が待ち受けている」とジム・ロジャーズ氏は危惧する。

次に問題が起きるときは、私の人生で最大の危機になると想定しています。

若い人にとっては非常に怖い時代です。私が生きている間に、国の借金を背負う義務は生じないかもしれませんが、世界中のすべての若者が借金の肩代わりをすることになるでしょう。特に人口が減り続けている日本の若者にとっては、深刻な問題です。日本では天文学的に借金が増えているうえに、それを背負う若者が減っているのですから、大変なことになります。

【渡邉】確かにリーマンショックからコロナショックにかけて、世界各国の政府はお金を刷り続けてきました。しかし、アメリカではバラまいたお金の回収をはじめています。これから2~3年は金利高が続くでしょうが、インフレとの戦いはソフトランディングするのではないかと私は思います。

一方で日本は、別格の借金と財政ファイナンス(※)をし続けています。だからこそ、日本が大きな危機のきっかけになるのではないかと懸念しています。ただ、それが世界レベルの大きな危機に発展するかどうかは疑問です。

※財政ファイナンス:財政赤字を賄うために、政府の発行した国債等を日銀が直接引き受けること

【ロジャーズ】2008年のリーマンショックでは、当時借金が少なかった中国によって世界が救われました。今はその中国でさえも大きな負債を抱えています。そのため、今後の経済ショックの際に中国が世界を救うシナリオは考えにくいでしょう。世界中の国がお金を刷り続けて借金を重ねてきたために、預金を豊富に持っている国はありません。救世主となる国が現れることは考えにくいのです。先進国の中では比較的借金が少ないドイツですら、すでにいくつかの州が財政難に陥っています。次の経済危機が起こった際に、世界を救える国を私は思い浮かべられないのです。

借金をし続ける国の未来がどうなるかを、多くの人が理解する日がやってくれば、借金の膨れ上がった国の国債は、誰も買わなくなります。そして、中銀が市場のコントロールを失えば、その国は破綻するか、衰退の一途をたどるのです。